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個展に寄せて

 


                               坂由理    チェンバロ奏者

 もう20年近く前のこと、夏の盛りのヴェネツィアで江花さんに初めてお会いした。チェンバロの講習会に参加するため、 サン・ジョルジョ島行きのヴァポレットに乗った私は、黒い服の女性がじっとこちらを見ているのに気がついた。東洋の人だろう。でも、その大陸的な雰囲気から日本の人とは思わなかった。講習会が始まり、明るい陽の下でラモーもバッハもかくやとばかりに弾んだ。休憩時間に他の日本人と話をしていると、先ほどの女性が近づいて来た。「あなた、日本の人だったの?!」聞けば、私の粗末なGパン姿から、日本人のはずはないと思ったそう。それからは、日々のことからレッスンの通訳まですべてお世話になった。通訳の合間には、寸暇を惜しんで奏者の姿をスケッチしている。「へええ、この人は絵を描くんだ」江花さんが画家であることも知らず、私は畏れもなくその様子をジロジロ見ていた。

 私に絵を語る資格はない。が、ラモーやバッハの楽譜を開けると、サン・ジョルジョ島に響いた音がよみがえり、江花さんの筆がすくいとった音楽会の情景が目の前に拡がる。いや、もしかすると絵のほうが先かもしれない。前回の個展では、あちらの絵、こちらの絵から聴こえてくる音がこだまし、会場が音楽に包まれるようだった。今回はどんな音楽が聴こえてくるだろう、大変楽しみにしている。

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